遺言書作成のすすめ
社会保険労務士 花岡日出美
ポイント
一、ある実話
私の依頼者のAさんは、長年お肉屋さんを営んで、結構裕福な家な家でした。その老夫婦には、同居し、家業を継いで一所懸命に尽くしてくれる長男と、商売に目を背けてふらふらしている次男とがいました。老夫婦は、将来を心配し、また相続税への懸念から、長男が結婚してしばらくたったとき、店舗や居宅の土地建物の名義をすべて長男に変えてしまいました。
数年して、長男が交通事故で亡くなってしまいました。しかし、老夫婦は息子の死を嘆いてばかりはいられませんでした。長男が亡くなると、嫁は子どもらを連れて家を出ていき、生命保険金はすべて取得し、さらに店の土地建物も、老夫婦の住む居宅の土地建物も、嫁と子どもら(孫)がすべて相続したので、自分らのものであると言い出したのです。
老夫婦から相談を受けて、私は困り果てました。結果的には、一定額のお金を支払って、土地建物を老夫婦に取り戻すことになりました。しかし、法律的には難しい問題です。
二、民法はどうなっているか
民法では、相続人についてつぎのとおり決めています(カッコ内は相続分)。
(1)亡くなった人(被相続人)の配偶者(二分の一)と子(二分の一)が相続する(配偶者がいないときは、子が全部を相続する。以下同じ)。
(2)子がいないときは、配偶者(三分の二)と被相続人の親(三分の一)。
(3)親もいないときは、配偶者(四分の三)と兄弟姉妹(四分の一)。
(4)配偶者以外の人がすでに亡くなっている場合は、さらにその子が代襲相続する。
(5)同じ立場の相続人が複数いるときは、相続分は均等とする。
先の実話は、仰の場合に該当するので、建前からは長男の嫁のいうとおりになってしまうわけです。
では、Aさんは、どうすればよかったのでしょうか。
三、Aさんはどうすればよかったか
Aさんとしては、土地建物の名義を長男に変えるようなことをしないで、自分が死んだら長男に相続させるという遺言書を作っておけばよかったのです(ただし遺留分の制約があります)。そうすれば、長男が亡くなった時点で、遺言書を作り直すことができたのです。
四、均等相続の例外(寄与分)と遺言
たとえば配偶者と、三人の子がいる場合、配偶者が二分の一、子が各六分の一ずつ相続することになります。しかし、被相続人に労務を提供したり、療養看護に尽くすなど、財産の維持。増加に寄与した人も同じというのでは悪平等になる場合があります(典型は、田舎に残って親の農業を継いだ長男と、都会に出て一家をなした次男が、親が亡くなると長男夫婦が住む親名義の田舎の土地建物の二分の一を要求できるという場合です)。
このようなことで兄弟間で紛争になるのを未然に防止する方法としても遺言が有効です。遺留分にさえ気をつけておけば、紛争になることはありません。
五、遺言書の作成方法
遺言書の作成は、公正証書で行う方法と、自筆証書で行う方法があります。公正証書が安心でお勧めです。ご相談ください。
一方、自筆証書は、遺言者が自分で全文、日付、署名、捺印をするもので、簡単に作成できます。しかし細かい注意事項を守らないと効力を生じない場合が多々ありますのでご注意ください。